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京都地方裁判所 平成7年(許可)申請号 決定

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別紙当事者目録記載のとおり

右当事者間の平成七年(行ウ)第二号消費税賦課決定処分取消請求事件(以下「本件訴訟」という。)について、原告から、西田富一税理士(以下「西田税理士」という。)を原告の輔佐人として口頭弁論期日に共に出頭することの許可申請(以下「本件申請」という。)があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申請を却下する。

理由

一  当事者の主張

1  原告

原告は、本件申請の理由として、次のとおり述べた。

(一)  税に関する知識の専門性

税法は、その条文が複雑・難解であると同時に、その税の執行に関しても、特別の知識・経験を有しないと、これを適切に処理できない状態にある。

西田税理士は、昭和三八年から平成四年七月までの約三〇年間、国税庁職員として勤務し、平成四年八月に税理士登録した者であるが、同人は、税務行政及び税理士業務を通じて、所得税法及び消費税法並びにその執行に関しての実務に精通し、本件訴訟において重要な争点となる消費税法三〇条一項及び七項に関する運用の実態について、専門的知識を有している。したがって、本件訴訟において同人の専門的知識は必要不可欠である。

(二)  本件における不服申立手続への関与

西田税理士は、原告から委任を受けて原決定に対する異議申立て及び異議決定に対する審査請求を担当しており、右審理の全貌を熟知している。

(三)  輔佐人許可の弊害の不存在

本件訴訟において、西田税理士を輔佐人として許可することを否定する理由は全く存在しない。

すなわち、民事訴訟法七九条の趣旨は、〈1〉当事者保護及び〈2〉事件屋排除のため、弁護士以外の者を訴訟代理人にすることができないことを規定したものであり、同法八八条もまたその趣旨にそって運用されなければならないが、右各規定は、既に弁護士が代理人に選任されている事件で、当事者の訴訟遂行能力を向上させるのに必要な専門的知識・経験を有する者を、輔佐人として許可することを排除する趣旨は含まれていない。

本件訴訟において、税の専門家である税理士を輔佐人として許可することは、訴訟活動に支障をきたすどころか、当事者の訴訟活動を増強するのであるから、右各法条の存在は、その選任を否定する根拠となるものではない。本件において、輔佐人の許可に関して当事者の不利益が存在しない以上、裁判所は、明白な拒否事由のないかぎり、西田税理士を輔佐人として許可すべきである。

(四)  当事者対等原則

(1) 民事訴訟法八八条は、民事訴訟の基本原則である当事者対等原則を保障すると同時に、特殊・専門的分野における紛争において、裁判所の的確な判断を保障するために規定されたものであるから、輔佐人の具体的な選任の是非の判断においては、右の当事者対等の趣旨・目的に合致するかどうかという視点からなされるべきである。

本件訴訟においては、消費税の税額控除否認の可否が問題となっているところ、原告代理人に名を連ねている者は九名であるが、訴訟代理人として常時訴訟活動に関与するものは四名にすぎない。これに対して、被告訴訟代理人は七名であり、その全てが常任として訴訟活動に参加するものである。そして、その半数は大蔵省職員であり、税法と税務行政の実態に精通している者である。したがって、当事者対等原則実現のためには、税法と税執行の実務に詳しい税理士の訴訟への参加が不可欠である。

(2) また、本件における被告訴訟代理人はいずれも、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律五条の規定に基づいて代理人に指定された者であるが、右規定に基づく指定代理人制度は、法律及び訴訟に関する分野の経験及び知識の乏しい者をして、当該行政庁の指定があることのみをもって、当然のごとくに訴訟代理人としての職務を行いうることを認めたものであって、民事訴訟法七九条の趣旨に照らしてその合理性に疑問がある。

このように実質的に訴訟遂行能力及び資格に疑問がある者が、多人数で被告の訴訟代理人業務を行なっていることを放置している一方で、原告の側に対してのみ、法曹資格がないことのみをもって、たった一人の税理士を輔佐人に選任することを拒む根拠はない。

2  被告

被告は、主文のとおりの決定を求め、原告の主張に対し、次のとおり反論した。

(一)  右1(一)ないし(三)の主張について

民事訴訟法は、輔佐人の許可に関する要件について、何ら規定を置いていないが、同法八八条、一三五条、七九条及び八四条等の諸規定に徴すると、〈1〉当事者に弁論能力がないとはいえないが、難聴、言語障害、老齢、知能不十分等の原因に基づき訴訟上の行為をするについて、相当の困難があり、これがため訴訟が必ずしも円滑に進行しない場合、若しくは、〈2〉当事者又は訴訟代理人が当該事案の性質上特に必要とされる自然科学、人文科学の専門的知識を欠くため、適切な攻撃防御方法を行なうことが困難であり、これがため権利の伸張、擁護に万全を期し得ないおそれがある場合に、裁判所の裁量により輔佐人と共に出頭することの許可を与えうるものと解される。しかし、〈3〉単に当事者が日常、訴訟と無縁であってこれに疎いとか、相手方が訴訟事務に熟知した訴訟代理人を選任しているとかいう事情だけでは、右許可を与えるべきものではない。

これを本件訴訟についてみるに、原告が訴訟上の行為をするにつき右(一)のごとき困難は存在しないことは明らかである。また、右(二)に述べた専門的知識を必要とする特殊な事案であるとも認めがたい。つまり、本件訴訟の争点は、〈1〉調査手続の違法性、〈2〉仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等の不提示の消費税法三〇条七項及び三九条二項該当性にあると考えられるところ、〈1〉は事実認定の問題であり、〈2〉は消費税法の解釈の問題であるし、本件で問題となる所得税法及び消費税法については、一般に納税者自身の申告課税を基本とする申告納税制度を採っており、多くの納税者が自己で計算しているところであり、ことさら専門家の知識を必要とするほど特殊な事柄とまではいいがたい。したがって、本件訴訟においては、原告は、輔佐人許可の要件を具備していない。

(二)  右1(四)の主張について

原告は訴訟代理人九人を選定しており、また、詳細な準備書面を提出しているのであって、原告の主張立証が困難であるとは考えられない。

原告は、指定代理人制度が当事者対等原則等に照らして問題があるかのごとく述べることにより、原告の輔佐人申請の根拠の一つにしようとしているようであるが、原告には弁護士である訴訟代理人が多数についているのであり、これは原告独自の見解であって、失当である。

二  当裁判所の判断

1  輔佐人許可の要件

(一)  輔佐人の許可に関しては、民事訴訟法上は八八条がこれを規定するのみであるが、同条は右許可の要件については何ら規定していない。そこで、輔佐人の許可に関する要件いかんが問題となる。

(二)  そこで、まず、輔佐人制度の趣旨につき検討するに、〈1〉現行民事訴訟法の法体系上、輔佐人に関する八八条は、第一編第一章第四節訴訟代理人及び輔佐人の項に規定され、条文配列上、訴訟代理人に関する規定の後に置かれていること、〈2〉現行民事訴訟法八八条は、当事者のみならず訴訟代理人にも輔佐人を付しうるものとしていること、〈3〉輔佐人は、事実上の陳述のみならず一切の陳述に関して本人または代理人の更正を受ける(同法八八条二項)という点で、訴訟代理人に比べて(同法八四条)その権能が制限されていること、〈4〉旧民事訴訟法(明治二三年四月二一日法律第二九号)七一条一項前段は、「原告若クハ被告ハ弁護士ヲ輔佐人ト為シ又ハ何時ニテモ裁判所ノ取消シ得ヘキ許可ヲ得テ他ノ訴訟能力者ヲ輔佐人ト為シテ共ニ出頭スルコトヲ得」と規定していたこと、以上の各規定の趣旨にかんがみると、輔佐人とは、当事者が訴訟上適切に攻撃防御を展開しうるためには訴訟代理人を付すだけでは十分でない場合に、当事者や訴訟代理人を補助して攻撃防御を展開するため、それらの者とともに期日に出頭してこれらの陳述を補足する制度であると解される。

(三)  そこで、輔佐人の許可要件について検討するに、右の輔佐人制度の趣旨にかんがみれば、裁判所が裁量により輔佐人とともに出頭することの許可を与えることができるのは、訴訟代理人の選任によっては救済されない不利益が当事者ないし訴訟代理人に生じていると認められる場合に限られ、単なる法律問題や通常の事実問題のように訴訟代理人の選任によって処理されるべき事柄に関しては、輔佐人制度を利用することは許されないものと解するのが相当である。

したがって、裁判所が裁量により輔佐人とともに出頭することの許可を与えることができるのは、〈1〉当事者に弁論能力がないとはいえないが、難聴、言語障害、老齢、知能不十分等の原因に基づき訴訟上の行為をするにつき相当の困難があり、そのために訴訟が必ずしも円滑に進行しない場合、〈2〉当事者または訴訟代理人が当該事案の性質上特に必要とされる人文・社会・自然諸科学の専門的知識を欠くため、適切な攻撃防御を行なうことが困難であり、そのために権利の伸張、擁護に万全を期し得ないおそれのある場合、〈3〉その他これに準ずる場合に限られるものと解される。

2  そこで、本件申請の当否について検討する。

(一)  右1(三)〈1〉の要件について

原告には、前示難聴等心身の故障はなく、本件訴訟についての訴訟行為をするについて相当の困難の存しなかったことは、本件口頭弁論手続の経過に徴し、当裁判所に顕著な事実である。したがって、本件申請は、右1(三)〈1〉の要件を充たすものとはいえない。

(二)  右1(三)〈2〉・〈3〉の要件について

本件記録によれば、本件訴訟の争点は、現在のところ、次の各点にあると把握される。

〈1〉 本件税務調査手続の違法性の有無

〈2〉 本件税務調査手続の際に、課税仕入れ等の税額控除に係る帳簿等及び貸倒れの事実が生じたことを証する書類の提示をしなかったことを理由とする消費税法三〇条七項及び三九条二項の適用の能否

〈3〉 右〈2〉の各書類を不服申立て段階又は訴訟段階において提示した場合における右〈2〉の各法条の適用の能否

〈4〉 平成二年度分消費税の課税標準に関する推計による算出の能否

に存すると考えられる。

これを前提とすると、右〈1〉は、通常の事実認定の問題にすぎないし、右〈2〉ないし〈4〉は、いずれも消費税法解釈の法律問題であって、税理士の輔佐を待つまでもなく、原告訴訟代理人において適切な主張立証をすることができ、また、当裁判所においても、右主張立証に基づき、右各争点につき適正な判断をすることができるものと考える。したがって、本件申請は、右1(三)〈2〉の要件を充たすものとはいえないし、その他本件記録を精査しても、本件申請が同〈3〉の要件を充たすともいえない。

もっとも、原告は、この点につき、税法及びその執行段階の知識の複雑性・専門性を主張する。しかし、右でみたとおり、本件訴訟の右争点につき適正・適切な判断をするために必要な専門的知識は、主に消費税法に関する知識であって、そのような法的知識の補充は、そもそも法律の専門家である弁護士を訴訟代理人として選任することによって行いうるところであって、それに加えて輔佐人を必要とする事情は見当たらない。

また、原告は、被申請人が本件において不服申立手続に関与し、右審理の全貌を熟知している旨主張するが、右被申請人の知り得た情報は、人文・社会・自然諸科学の専門的知識に属するとは認めることができない。

してみれば、原告の右各主張は、いずれも採用できない。

(三)  なお、原告は、本件訴訟において、被申請人を輔佐人として許可しても、民事訴訟法七九条、八八条に照らして何ら弊害がなく、むしろ原告の訴訟遂行能力を増強するものであるから、裁判所は明白な拒否理由が具体的にないかぎり、被申請人を輔佐人として許可すべきである旨主張する。

しかし、当裁判所は、前記1(三)説示のとおり、裁判所において輔佐人の許可をすることができるのは、当事者又は訴訟代理人において訴訟代理人の選任によって救済されない不利益が存在している場合に限られると解するので、原告の右主張は採用することができない。

(四)(1)  また、原告は、原告の訴訟代理人として常時訴訟活動に関与するものは四名であるのに対して、被告訴訟代理人は七名全てが常任として訴訟活動に参加しており、また、その半数は大蔵省職員であり、税法と税務行政の実態に精通している者であるから、当事者対等原則実現のためには、税法と税執行の実務に税理士の訴訟への参加が不可欠である旨主張する。

なるほど、民事訴訟において当事者対等原則が保障されねばならないことについては、原告主張のとおりであるけれども、輔佐人制度とは、前述のように、当事者又は訴訟代理人において訴訟代理人の選任によっては回避されない不利益を救済するものであり、制度それ自体が当事者対等原則の実現を図ることを目的としているものと解することには疑問がある。のみならず、本件訴訟においては、主に消費税法の解釈が争点となっているのであって、右争点に関する攻撃防御に関して当事者対等原則を貫徹するにあたっては、本来、法律の専門家である弁護士を訴訟代理人として選任することによって行うべきものであり、本件訴訟においては、前示のとおり、当事者平等原則保障のため、訴訟代理人を選任している原告に対し、さらに税理士たる輔佐人を許可すべきであるとする事情は、これを認めることができない。

(2)  なお、原告は、指定代理人制度は民事訴訟法七九条の趣旨に照らしてその合理性に問題があるとし、これを理由に、指定代理人たる被告訴訟代理人が本件訴訟において訴訟追行をすることが認められていることとの均衡上、原告に対しても西田税理士を輔佐人として許可すべきであると主張する。

なるほど、指定代理人制度に関する合理性については論議の存するところであるが、しかし、その当否は別にするとしても、右は指定代理人制度自体の立法政策の問題であるにすぎない。してみれば、これを輔佐人制度によって解決を図ろうとする原告の主張は、これを採用することができない。

(3)  原告は、裁判所が被申請人を輔佐人として許可しないようなことがあれば、裁判所は当事者対等原則を踏みにじったものとして公平な裁判を期待することができない旨主張する。

しかし、当事者間に訴訟追行上の攻撃防御の能力差がある場合でも、裁判所は、釈明権の行使その他の方法によって当事者双方に攻撃防御方法を尽くさせることにより、両当事者の裁判資料収集をめぐる地位の実質的平等の実現を図り、もって、公平にして適正な裁判をすることを要するのであり、かつ、当事者も当然これを期待しうるのであるから、原告の右主張はあたらない。

3  結論

以上によれば、本件訴訟においては、輔佐人許可の要件を充たさないものと認められるから、本件申請は、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 裁判官 府内覚)

当事者目録

京都市伏見区深草ヲカヤ町一九の七

原告 矢野頌子

右訴訟代理人弁護士 近藤忠孝

同 岩佐英夫

同 久保哲夫

同 高山利夫

同 稲村五男

同 荒川英幸

同 小川達雄

同 小笠原伸児

同 高田良爾

京都市東山区馬町通東大路西入ル新シ町三三九番地五

被告 東山税務署長

右指定代理人 川口泰司

同 的場秀彦

同 西村清典

同 大熊節

同 山内悟司

同 小林正喜

同 古角隆志

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